第3回 「Pink」「リバーズ・エッジ」(岡崎京子)
「寄生獣」(岩明均)
【あらすじ】
<Pink>
昼はOL、夜はホテトル嬢をやっている女の子ユミコは、ワニを飼っている。 ワニが餌をたくさん食べるので、OLの給料だけではやっていけず、ホテトル嬢をやるようになったのだ。
ユミコはある日、継母の浮気相手で作家志望のハルヲと出会って恋に落ちる。
これを知った継母は、腹いせにユミコのワニを殺して、ワニ皮のカバンにしてしまう。
ワニを失ってユミコは茫然自失となるが、ハルヲが出鱈目に作った小説が大きい賞を受賞して、ふたりは大金持ちになる。 その金でふたりは、ワニのたくさんいる南の島に行こうと計画する。
しかし出発の日にハルヲは交通事故に遭って、死んでいった。
空港では、ユミコがずっとハルヲを待ち続けていた。
<リバーズ・エッジ>
工場が群立する河原の近くの、荒涼とした高校が舞台である。 若草ハルナは、この高校に通っている。そして、同じ高校に通う観音崎君とつきあっている。 彼はいじめられっ子・山田君をいつもいじめていて、ハルナが山田君をかばうといじめをエスカレートさせていく。
観音崎君は、ハルナは山田君が好きなのだと思いこんで嫉妬していた。 しかし、山田君は同性愛者で、好きな男がいるのだった。
また、同じ高校に通うモデルの吉川こずえは、ハルナに想いを寄せていた。
ある時、吉川こずえは、ハルナに宝物を見せるといって河原に連れていく。 そこには、ほとんど白骨化した死体があった。こずえは、どんなにつらいことがあっても、 この死体を見ていると癒されると言う。そして、この死体は、山田君のものでもあると言う。 山田君も、この死体を見ることで密かに癒しを得ていたのだ。
そのうち、学校の連中にこの死体が見つかるかも知れないということになる。 3人は他の人間に見つかる前に死体を埋めてしまう。
その後、2つの悲劇が起こる。
ひとつは、ハルナの友人ルミが、姉妹でケンカした末、ナイフで切られて大ケガをする。 そして、ショックで過って身ごもってしまった胎児を流産し、自分も頭がおかしくなってしまう。
もうひとつは、山田君が自分が同性愛者であることをカモフラージュするために つきあっていた女の子・田島さんが、ハルナが山田君を奪っていくと思い込んで、ハルナの家に火を放った挙句、 そのマンションの前で焼身自殺してしまう。
家につけられた火はすぐに消し止められたが、 ハルナの一家はそのマンションに居られなくなって引越しをする。引越しの前日、観音崎君が手伝いに来て帰り、 その後、山田君が挨拶にやってくる。ハルナは、山田君と川沿いを歩いていく…
<参考>
[岡崎京子]
1963年東京生まれ。「Pink」を1989年に、「リバーズ・エッジ」を1994年?に発表する。
「寄生獣」も近日中にあらすじ載っけます。
【話の要約】
<Pink>
[♪脳みそPinkに、決めてみよう]
岡崎京子は、構成力が優れた作家である。
「pink」では、昔ながらの「不条理」の象徴である「ワニ」を、てこの支点に据えて物語の回転を図っている。
しかも、この「ワニ」は単純に不条理を象徴しているだけでなく、
主人公ユミコの不満やストレスのはけ口として機能しているところが秀逸である。
つまり、現代風に捉え直されているがために、読者にリアルに迫ってくるのである。
そして、負のエネルギーのはけ口を失ったユミコは生気を失う。
また、Y井君が指摘してくれたが、「ワニ」には「ワニ」という名前しかないのも、
一般性を持たせ、また、奇異な感じで存在を際立たせている。
同様に、物語の回転軸として作用しているのが、「おじいさんにもらった花の種」である。
この花が咲いた時、ユミコと妹のケイコと恋人のハルヲ、そして、もしかしたら同じ場所にいたワニも、
何かを祈ったかもしれない。このうち、ハルヲは、吹き出しによって祈った内容が示されている。
「立派で偉大な作家になれますように」と。
他の2人と、1匹は、一体何を祈ったか?
ユミコは、「ハルヲといっしょに南の島に行けますように」ではなかったろうか。
ワニは、「南の島に戻れますように」ではなかったろうか。
もし、そうであるとすると、この物語の中では、花に祈った願い事は、叶うのである。
しかし、その代償を払わされている。事故にあったり、恋人を失ったりと。
まるで何かの昔話のように分かり易い構図ではないか。
そして、最後のシーン、恐らくは、ユミコとハルヲの一生の別れであろう場面は、
ユミコが別れに気付いていないということが、より悲しみの度合いを深めている。
<リバーズ・エッジ>
[♪みんなみんな 生きているのか? 友だちなのか?]
「リバーズエッジ」も、構成力がいかん無く発揮されている。
しかし、作者がもっと意識したと思われることは、映画的場面描写であろう。
場面転換の際の場面説明用の遠景に、印象的な場面を入れるよう工夫したり、
2つの異なる場所での同時進行事件を、フラッシュバック風に交互にコマを織り交ぜて描写したりしている。
性的なことに興味を失ったハルナと同性愛者の山田君は、
お互いに相手に好感を抱いているにもかかわらず、ふたりは友達になることはなさそうだと読者に感じさせる。
それは、ハルナは観音崎君の目が光っているし、
山田君には同性愛のカモフラージュ用の恋人田島カンナがつきまとっているから、
ということ以外に、周りの好奇な目があるからではないだろうか。
この作品で、岡崎京子が読者に伝えたかったメッセージは、
荒れ果てた原野のように、不毛な土地に取り残された今の子供たちへの同情である。
「すでに何もかも持ち、そのことによって何もかも持つことを諦めなければならない」
「あらかじめ失われた」私たちへの同情だ。
「あたし達は何かをかくすためにお喋りをしていた。 ずっと何かを言わないですますためにえんえんと放課後お喋りをしていたのだ。」
今の子供たちは、もはや伝えることすら失っている子が多いのかもしれない。
だから、他人の噂話をするくらいしか、することが無くなっているのだ。
ここで、ちょっと余談。
p202から、ウィリアム・ギブスンの訳詩が挿入されていて、これがばっちりストーリーにはまっている。
ところが、故意なのかどうか分からないのだが、この詩の翻訳は、原詩の意味からずれてしまっているようだ。
原詩で "field" とあるのを、訳詩で「戦場」としてしまっているのが大きな原因である。
訳詩では、切迫した閉塞感を前面に押し出した冷たいイメージの詩になっているが、
原詩は、非常に理科系な詩で、水が蒸気や氷に変化するように、私達の感情も時間空間に応じて変容し得るのだ、
というようなイメージで、どちらかというとポジティブな感じがする詩になっている。
だから、何?と言われると困るのだが…
閑話休題。
この作品でも岡崎京子の暗示や象徴はさえわたっている。
死体は、「pink」における「ワニ」と相同をなしている。
死体に対する倒錯した優越感が、山田君と吉川こずえを支えている。
吉川こずえは、死体を見たとき「あたしにも無いけど、あんたらにも逃げ道ないぞザマアミロ」と思ったという。
河原にいる死体は、私達自身の姿に他ならない。
岡崎京子は、「あなたたちは、みんな死んでいるのだ」という事実を突きつけているのだ。
これに、一体誰が反論出来るだろうか?
死体があった頃は、一応の安定があった。しかし、死体を埋めてから事件が起こる。
そして、「いったい死体はどこ行っちゃったんだろう?」(p194)という、場面に至ると、
死体によって結び付けられていた、この性にうんざりした女の子と男性同性愛者と女性同性愛者という、 本来なら交わりようのない3人は、ついに離れ離れになってしまう。
また、ハルナが山田君と一緒に歩いている時、UFOを呼んでも来ない。 そのような、わくわくさせるものの代わりに、海の匂いとか、汽笛の音とか、朝の日の光などが来る。
いつもの日常であると同時に、少しは希望の持てる明るいものが提示されている。
この微かな救いを見せるところが、岡崎の優しさである。
岡崎京子さんは、「pink」のハルヲさながらに、車に轢かれてペンの持てない体にされてしまった。
ワゴン車にノーブレーキではねられ、道路標識の棒に頭を打ちつけて、頭骨を砕かれたという。
彼女の愛する旦那さんの目の前で。彼女の大好きな散歩をしている時に。
「リバーズエッジ」を読んでも分かるが、彼女は次第に映画という表現形式に惹かれていたようだ。
事故にさえあわなければ、今頃きっと映画も何本か撮っていたと思う。
僕が映画を撮ってみたいと願うのは、もしかしたら彼女のためかもしれない。
立派で偉大な作家のために。
<寄生獣>
[♪あたまあたまあたま〜 あたまを食べると〜 からだからだからだ〜 からだだけになる〜]
寄生獣では、「なぜ『田宮良子』は、警官に撃たれるがままになって死んでいったか?」
という疑問をS浦さんが提示した。
とりあえず、「寄生獣は、人間が赤ん坊を育てている様子が羨ましかったからではないか」と答えた。
(映画「エイリアン」のロボット船長のように。)
S浦さん(のお母さん)は、
「もし、あの時、『田宮良子』が怪物に変形していたら、子供は一生『怪物の子』といわれることになる。 文字どおり死んでもそれを避けたかったからだ。」という。
なるほど。
優れた作家は、いろいろな人物を自分の中に飼っているが、
この作者はそういう人間的な思考を持つ寄生獣を想定したかもしれない。
そうそう、お詫びを2点。
@【あらすじ】で、田島さんが焼身自殺するということを書いてしまいましたが、自殺ではなくて、事故死でした…スンマセン…
A「寄生獣」のあらすじを近日中に書く、と書いてそれっきりになってしまいました。
本を貸し出してしまって、書けなかったもので…
…みんな、これからは、本はなるべく自分のを持つようにしよう。
【会の様子と感想】
今回初めて漫画でやってみたのですが、なかなか楽しかった。
しかし、活字本の読書会に慣れていたせいか、思ったより絵の方に議論が振れなかったのが反省点でしょうか。
あ、それとこれからはできれば時間どおりに始めたいのですが…皆様、ご協力を!
そうそう、今回もいらんことを話まくりましたねえ。
・「冷蔵庫の中に閉じ込められると、本当に中から開けられなくなるのか?」
と誰かが言い出した(誰が、何で言い出したんだっけ?)僕が、「うちに使っていない冷蔵庫がある」 と言ったら、「じゃあ、H岡さんで実験しましょう」といわれた。
やっぱりね…
・春先、桜山付近(名古屋市内だ)で、風の強い日に、潮の匂いがした、と僕が主張したら、
「距離的にそれはない」といわれた。そうなのかな?
・ 寄生獣って、「Onepiece」とつながるものがある、というと、K藤さんがウケていた。
次回もいらんことをじゃんじゃん話しましょう!
第2回 フランツ・カフカ 「変身」へ
第4回 安部公房 「砂の女」ヘ
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